このサイトは、1984年4月から1985年3月まで放送された役所広司主演の
NHK新大型時代劇『宮本武蔵』を語るページです。

大河ドラマ『徳川家康』の織田信長役でデビューした役所広司さんが、
その人気を不動のものとした大河の傑作です。
是非、一緒に語り合いましょう。


2005年 1月29日 更新


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第 1回 故郷出奔 第16回 芍薬の使者 第31回
第 2回 関ヶ原の雨 第17回 柳生無刀取り 第32回
第 3回 お甲と朱実 第18回 愛憎の季節 第33回
第 4回 岐れ路 第19回 忘れ貝 第34回
第 5回 戦後の風 第20回 必殺鎖鎌 第35回
第 6回 ふるさと無宿 第21回 風雲五条大橋 第36回
第 7回 お通乱れ笛 第22回 清十郎無残 第37回
第 8回 沢庵の罠 第23回 雪の三十三間堂 第38回
第 9回 恋の千年杉 第24回 生死一路 第39回
第10回 宿命の二人 第25回 第40回
第11回 花田橋涙橋 第26回 第41回
第12回 都大路の春 第27回 第42回
第13回 陽なた陽かげ 第28回 第43回
第14回 めぐりぞ逢わん 第29回 第44回
第15回 槍の法蔵院 第30回 第45回

第 1回『故郷出奔』

【物語】
寛永20年(1643年)初冬。肥後熊本城の西方・金峰山に眼光鋭い老人がいた。巌流島の決闘以来、各地をさすらうこと28年。今、大守細川家の食客として霊巌洞にこもり、『五輪書』を執筆する二天一流・宮本武蔵の姿だった。彼の脳裏には壮絶な戦いに明け暮れた若き日々の記憶が甦ってくる・・・。43年前の慶長5年。美作国吉野郷讃甘村宮本。17歳の武蔵はまだ『タケゾウ』と呼ばれ、同い年の本位田又八とともに関ヶ原へ向かう新免の軍勢を見ては出奔の機会をうかがっていた。ある日、ついに武蔵は、姉・お吟を説得。又八は、祝言を2日後に控えたお通の制止を振り切り、関ヶ原の戦場へと赴くのであった。

【牛嶋の物語解説と感想文】
@原作は吉川英治先生の小説『宮本武蔵』
1643年。熊本城下から西へ10数キロ離れた洞窟に、近頃住み着いた不気味な老人がいた。朝起きると素足で走り回り、その速さは尋常ではない。食事が終わると洞窟に戻り、日が暮れるまで何やらせっせと筆を走らせる・・・。同時に老人は昔を回想するが、それは宮本武蔵vs佐々木小次郎の巌流島のシーンだった。武蔵の遅刻に冷静さを失い、鞘を投げ捨てる小次郎。『小次郎、敗れたりぃ』武蔵が叫ぶ。小次郎が斬りつけ、武蔵は高く飛びはね上から天から斬りつける・・・そこで巌流島の映像は止まったが、その回想した老人こそが宮本武蔵、その人であった。このように役所武蔵は晩年の武蔵から始まり、巌流島で終わる。出来れば晩年まで描いて欲しかったが、吉川英治先生の小説『宮本武蔵』を原作にしているので仕方がない。でも、吉川先生が『それからの武蔵』を書いていたらどう書いたであろう。想像するだけでワクワクしてしまう。

A音楽は三枝成章(現・成彰)さん
タイトルバックは笛の音から始まる。『宮本武蔵』で笛と言えばお通。それを意識したかどうかは分からないが、この時代にはしっくりいく楽器だ。そして『宮本武蔵』という赤い文字。それがパリーンと割れてオープニング曲がスタート。作曲は三枝成章さん。これは当時の字で、今は”三枝成彰”だ。役所武蔵の良さは物語の良さだけにあらず、音楽もとても素晴しい点も挙げておこう。サントラがないのが残念だが、サントラが出たら間違いなく買っていたくらいに良い音楽が多い。朱実のテーマ、小次郎の妻・お光のテーマなど、三枝さんが作曲したロマンチックなテーマは最高である。ドラマに音楽は欠かせないのを改めて感じた次第だ。さてタイトルバックに話を戻そう。映像は武蔵がほぼ全編、シルエットとして登場している。走る姿、歩く姿、小次郎、梅軒との戦い、その間に飛び出す武蔵ゆかりの様々な文字・・・。今の時代のようにお金がかかっていない映像作りだが、シンプルでとても良い。これも音楽のテンポとリンクした映像作りをしたからに他ならない。素晴らしいぞ!

B武蔵の姉を演じるのは、親近感ある新井春美さん
舞台は美作国吉野郡讃甘村宮本。現在の岡山県英田郡大原町宮本で、街は戦が始まるのでは?ピリピリ。そんな中、新免家は参戦せよと命令が下され、武蔵の姉・お吟は今後を心配した。武蔵の父は平田無ニ斎。かつて兵学の指南役として新免家に仕え、新免姓を名乗る事を許されたが、武蔵が関ヶ原に参戦するのはある意味自然な流れだったのかもしれない。お吟を演じたのは新井春美さん。”女優さん女優さん”していない、とても親近感ある顔立ちで、武蔵を見守る姉としてはぴったりのキャスティングだ。前半はともかく、宮本武蔵として凱旋した時、そして、最終回にも登場する事になる。

Cお通は古手川祐子さん
お通を演じるのは古手川祐子さん。当時はまだ20代だったと思うが、ほっぺが少しふっくらして、”強い男の妹役”がとても似合う可愛い女優さんだった。手助けしたいと思わせるか弱い所も持ち合わせ、まさにお通役にぴったりではないだろうか。お通は七宝寺に厄介になっていたが、元々は捨て子であった。その時持っていた笛が親の形見であり、その笛がお通のトレードマーク的なモノになっているが、親の名前は『三沢なにがし〜という侍だった』としか知らないお通。でも、その三沢〜がのちに大きく武蔵と関わりを持つとは、この頃のお通には知るよしもなかった。

D平田家と本位田家
お通は、武蔵の親友・本位田又八と2日後に祝言をする予定だ。しかし又八の母・お杉は、『平田の武蔵(タケゾウ)にそそのかされているのでは?』と又八が戦に行く事を心配。お杉はタケゾウを良く思っていなかったが、そこには平田家と本位田家との確執を生む重大な事件が隠されていた。それは11年前の事、無二斎は新免家の家臣で重臣だったが、主君の命を受けて本位田外記之助を呼び、『極意を伝授する』と言って刀を取り上げて上意討ちしたのだ。その過去の経緯から、家と家は実質絶縁状態にあったが、武蔵と又八は馬が合い、本位田家に嫁に行くお通はタケゾウの姉・お吟を本当の姉のように慕っていた。それでも、『騙まし討ちにあって・・・』と、お杉はそれを許そうとしない。当然と言えば当然だが、戦国時代ならではの悲劇としか言いようがない。

Eお通とお吟
お通が祝言で着る衣装はお吟が仕立てたものだった。その衣装を見たお通は喜ぶが、そんな中、タケゾウと又八がやってきた。役人に追われているとの事で、タケゾウはお通の衣装を使って相手を翻弄。そして別の場所へと逃げていったが、衣装は泥まみれになってしまうのであった。当然お吟は激怒し、『お通の晴れ着ぞ!』とタケゾウに張り手一千。事情を知ったタケゾウだが、『お通、許せ!』と言って去って行ってしまう。それを受けてお杉は、『平田の腹黒さが分かったか。又八の嫁になるのを妬んでいるのじゃ』と、囲炉裏の炭をお吟に投げつけた。お吟は立ち去るが、お通はお吟を追う。しかし、お吟は『もう来てはいけませぬ』とお通への気遣いを見せた。しかし『これからも参ります』と、この点だけはお杉の意向を無視する構えだった。お通がいかにお吟を頼っているかがよく分かるエピソードだ。当時からタケゾウとお通がデキていればもっと良かっただろうが・・・。
 
F関ヶ原参戦を決めた2人
『タケやん、みんな城に行くぞ』と又八はタケゾウに戦に行こうと誘っていた。そして、『俺は作州の一国で一生を終えたくない』と夢を語り始める。一方のタケゾウは、『俺は大きな夢は持っていない。ただ、剣で生きてみたい。俺の腕がどこまで通用するか・・・』と思いを口にした。『物足りない・・・』と言う又八だが、さらに、『俺は親父に勝ちたいんじゃ。親父より強くなる事だけを夢見てきた』と熱く語るタケゾウ。実はタケゾウの父と母は離縁した間柄だった。雪の降る中、玄関から出して追い出した無二斎。裸足のまま去る母・・・その記憶が甦ってきたタケゾウは、ただただ親父だけを意識して生きてきたと言える。その思いを受け止めた又八は『天下一の兵法者になれ!夢はでっかい方がいい。お前には腕がある。俺には才覚がある。2人して天下を取るんじゃ。決まった!』と声をかけ、そして、関ヶ原参戦を決めたのだった。それにしても、このような野望を持って関ヶ原に参戦した人間は何人いただろう。結果論だが、あのような大きな戦で天下を取ろうなど夢物語である。天下どころか自分の命が心配だ。そんな中でその後天下に名を轟かすほどの兵法者になった宮本武蔵。やはり凄い人だ。
 
Gメインキャストのほとんどが登場!
早朝、武蔵は戦に行くため家を出ようとするが、そこをお吟に見つかってしまった。必死に頭を下げるタケゾウ。『力を試してみたいんじゃ。村におっては迷惑をかける。親父以上の兵法者になりたいんじゃ。見逃してくれ』。その言葉にしばらく考え込むお吟だが、『姉のことは心配するな。こんな狭い村にいるよりいいのかもしれません。タケゾウ、ご無事での』と、タケゾウの関ヶ原行きを許したのであった。一方。又八はお通の制止にあっていた。その姿を見て『又やん、お前は残れ。又八、さらば!』と先に行く。しかし、お通の制止を踏み切ってタケゾウの後を追う又八。お通は泣き出してしまった。道中、タケゾウと又八は沢庵に会うが、『そんなものをかついでどこへいく?今から行ってもろくなものは残っていないぞ』と沢庵。この沢庵が今後の武蔵に大きく影響を与える事になる。そして、『ここに、2人よりほんの少し早く生まれた男が・・・』というアナウンサーのナレーションとともに登場したのが柳生宗矩であった。”武蔵の人生に大きな影響を与える男”と紹介されていたが、それに続いて宿命のライバル佐々木小次郎も登場。”この時、岩国の渓流で岩燕を見ていた”と紹介されていたが、燕返しが誕生しようとしていた。顔見せ的な部分が多かったが、こうして第1話が終わった。
 
【全体を通しての感想】
筆者が絶賛した役所版『宮本武蔵』。1話目から次に期待させるような面白い内容だった。実は吉川英治先生の原作は、関ヶ原終了後から物語が始まる。つまり1話目は、吉川原作の前の段階を描いた事になる。もうすっかり御馴染みの作品ではあるが、主人公の背景をしっかり描いたのは凄く丁寧な作りであると言える。脚本の故・杉山義法さんは素晴らしい!もちろん演出の方々、出演者、音楽なども良い!全てがうまくリンクして出来たのが役所版『宮本武蔵』だったと言える。2話目が楽しみだ。

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